デレク・ブルジョワ(Derek Bourgeois)について
大学の時に習っていたフランス語の先生が「人とは言葉である」ということをある日の授業でふっと言った。もちろんその言葉に至るまでには壮大な文脈があったのだが(その文脈自体は忘れてしまった)それから折に触れて「人とは言葉である」というセンテンスの意味を考えている。
おそらく音楽家に関して言えば、「人とは音符である」ということになるのだろう。
デレク・ブルジョワという作曲家は、おそらく、楽器をやっている人の中でもそこまでメジャーな名前ではないと思う。
私がブルジョワの曲に出会ったのは、フランスに留学していた8年前のことだ。
この曲自体、ブルジョワの曲の中でも相当マイナーではないかと思う。しかし私はすぐにこの曲の虜になった。爽やかな曲である。
指揮をしていたエロワというフランス人の音楽家もこの曲を愛していたようで、非常に的確な解釈で演奏を導いてくれた。その時の音源が残っていないのが残念だが、私が所属していた間のレンヌ市民吹奏楽団で、間違いなく一番の演奏だった。
この曲だけが心に残り、そこからブルジョワとはしばらく御無沙汰になる。
なぜ生きていることを知っていたのに、連絡をしなかったのだろうと後悔した。作曲家というと天の上の人のように思えるけれど、ブルジョワは同時代を生きた稀な作曲家だったのだ。「ハファブラ序曲であなたのファンになりました。今はトロンボーン協奏曲を聴いています」くらいのことは、すぐにメールできたはずだ。というか、そういう時のために、私たちは英語を勉強してきたのではなかったか。
(トリトンのこれがオリジナル版だそうですが、これではあまりに難しすぎて商売にならないということで、現在流通している三度下の版が作られたそうです)
これは、ハファブラ序曲や、トロンボーン協奏曲とは違った、魔術的な魅力を持つ音楽だ。
そして、ずば抜けて難しい。相当な覚悟を持ってやらないと返り討ちにされる。
私はブルジョワに言葉で語りかけられなかった後悔を、音符で試みようと思った。
「人とは音符である」が真であるならば、「音符とは人である」もまた真であるから。
楽譜を通じて、ブルジョワが表現したかった世界を少しでも見てみたい。一体どんな魔法が私の魂の琴線を震わせるのか、それを知りたい。無謀な挑戦ではあるけれど、そんな気持ちでアンサンブルコンテストに臨もうと思っている。