手紙を書いているとき

私は一応大学でコミュニケーションという、わかったかわからないようなものについて五年ほど(四年で終わらなかった、大学が好きすぎて)学んでいたので、人と人とのコミュニケーションについては多少の知見がある、と自分では思っている。 手紙という通信手…

独りで酒を飲んでいるとき

二十五歳を過ぎた頃から独りで酒を飲みに行くようになった。純粋にひとりだ。当然ナンパなどしないし、マスターとも喋らないし、隣席と仲良くなることもない。ただ、独りで酒を飲み、つまみを食べ、そしてここが重要なのだが、本を読む。 行儀が良くないこと…

時代を経てなお輝く評論 清沢洌評論集

清沢洌という人の名はジャーナリズムを専攻していた頃からもちろん知っていたが、どういう文章を書いていたのか、どういう思想の持ち主だったかということは、恥ずかしながらこれまで知らなかった。 「愛国心とは、すべての美と真をふくむものであろう」 こ…

艱難汝を玉にす?

たとえば今私は、一週間以上休みなく働いたりすることがある。ただでさえ土曜日出勤なのだが、ときどき日曜も休めないこともあるのだ。しかしそれを特に苦痛だとも感じてないし、「クソ、休みたかったのになあ」とも思わない。必要だから働く、という意識で…

銭湯に行ったとき

年に何回か銭湯に行くことがある。休みの日にふらりと行くこともあるし、山登りの帰りに行くこともあるし、友人と何となく行くこともある。そんなに頻繁に行く方ではない。でも私は、銭湯というものが好きである。時々行くくらいがちょうど良いのかもしれな…

寿司を食べているとき

何と言っても人間は美味しいものを食べているときがいちばん幸福で、満たされていると思う。しかし興味深いのは、「美味しいもの」の定義が人によってかなり違うということだ。これは、好きな音楽とか、好きな人の顔のタイプとかより、よほど根源的で、生物…

誰かに贈り物をするとき

べつに死ぬほどお金持ちで、お金が掃いて捨てるほどあるというわけではなく、むしろ月末になると財布の中身が心配になることの方が多いのだが、生意気にも、人に贈り物をしたりするのが好きである。 これは誰かに教えられたわけでも、誰かやたらと私に贈り物…

私的幸福論 はじめに

アランの「幸福論」という本がある。私は、自分が幸福とは反対側の絶望の只中にいると思っている時にこの本を手に取った。 そこに書かれていたのは、決して、幸福になるための方法だとか、心の持ちようだとか、そういった類の言葉ではなかった。 しかし、ア…

たまには短歌などいかが 五島諭著 緑の祠

滅多に詩というものを読まない。格言めいた言葉は好きな割に、これまで詩という領域にとくべつ関心を持ったことがない。二十数年生きてきて、恥ずかしいことではあるが、初めて買った詩集がこの「緑の祠」ということになる。 たまたま近所の大きな本屋に入っ…

島がミステリー 多島斗志之著「不思議島」

私はこのブログでいろいろな書籍を紹介してきたが、なぜそんなものを書くのかということを、一度、改めて考えてみたいと思う。新年でもあることだし。 私は比較的読書をする方だと思う。統計を取ったわけではないし、実際そういった統計は存在するのだろうが…

音楽主義という思想について

もし自分が政治家になったら、という空想を口にすると、ずいぶん自意識過剰と思われるか、あるいは政治家を志していると思われるか、そのどちらかかもしれない。しかし一応は民主主義という政治形態を取っている以上、この日本という国においては、市民が主…

「苦手」のコペルニクス的転回

誰にでも苦手なことはある。私が苦手なもの、ブロッコリー、ダイエット、早起き、理科全般、会議、セカンドトロンボーンの楽譜、ドイツ語の格変化、地図を読むこと、etc,etc……。 あるいは苦手な人、みたいなのも、どうやらあるようだ。 私自身は、自分で言う…

真に創造的なこととは

クリエイティブという言葉が昔から体の中のどこかの部分に引っかかっているような感じがする。私はどうもそういう細かい、比較的どうでもいいことを多少気にする性質らしいのだが、とにかくクリエイティブ、という言葉を聞いたり読んだりすると、「これは一…

「沈まぬ太陽」が表現したかったもの 日本的政治の遠近法

WOWOWで放送されたドラマ「沈まぬ太陽」は、もしテレビドラマ史というものを書くとすれば、2010年代の頁を書くのに必須のタイトルとなるだろう。それほどまでに素晴らしいフィクションであった。ドラマの作り手に敬意を表すると同時に、現代にまで鋭く届…

楽しむための訓練

小説や絵画や音楽といった芸術作品でも、スポーツをすることでも、スポーツの観戦でも、あるいは学問でも、はたまた人生そのものでも良いのだが、ものごとを「楽しむ」ということは、容易に思えて、案外そうでもないものである。ということを最近よく考える…

ドラマ「沈まぬ太陽」を見終えて 音楽描写について

テレビドラマというものは、おそらく現代の鏡のような役割を果たしていると思うのだが、それにしても、ずいぶんと見なくなった。鏡なんか見なくても、自分の顔つきくらいわかっている、という傲慢さがあるわけではないのだが、どうも「見たいドラマ」という…

教育の未来を描く 中室牧子著 学力の経済学

かつてプラトンは、師ソクラテスとプロタゴラスとの議論を描く際、アテナイ人が議会に集まって議論をする様子を描写した。ソクラテス曰く、市民が土木建築に関する議論をするときは、建築家を招き、造船に関する場合は造船の専門家を呼ぶ。それらの専門家で…

読書感想は時空を超えて 宮部みゆき著 模倣犯

読書感想文というものがある。夏休みの宿題として悪名高いアレだ。読書家の間でも話題に上ることは少ないが、私はけっこう、意義のあるものではないかと思っている。 というのも、アレはアレで、読み返すとなかなか味があって面白いのである。 中三の時、夏…

稀有な書 村岡崇光著 私のヴィア・ドロローサ

よくよく考えてみると、私が過ごした中学校、高等学校は、いわゆる中高一貫の私立校で、キリスト教主義の教育というものを標榜していた。 在学中、キリスト教的な象徴は校内のいたるところに存在したし、週に二度礼拝があった。宗教教育の授業もあった。その…

舛添氏の辞任から学べること

この間浅野史郎が「ひるおび!」で、舛添知事の辞任に関連して、「知事選のあり方が知事の質を左右する」というようなことを言っていた。文脈としては、舛添云々というよりかは、青島幸男が大した選挙戦もせずいわばクールに都知事になって、その結果任期途…

ジェネレーションギャップの本質

最近、あまり大層なことを考えなくなっている。短いけど、最近気づいて「おもしろいな」と思ったことを書いておきます。 高校生の生徒と話していて、どうもジェネレーションギャップというのを感じることがある。この間は、「カップルの写真つきツイートにど…

これだけは言っておきたいフランス語のこと カタカナ語にもの申す

自分で言うのも相当アレだが、今日は、これからかなり有益なことを書く。といっても、このブログ自体、ほとんど誰も読んでいないし、そもそも私のペンネームで書いているので、実際の知り合いが読む可能性はまったくないブログだ。しかしアクセス解析なんか…

ミステリばかり読んでいる

とりとめのない話。このブログの最初の記事に、「人生は結局読んで書くということだ」みたいな偉そうなことを書いていたが、今でもそう思っている。ブログを始めた頃に比べると、仕事も住む場所も変わったけど、読書の傾向みたいなものもけっこう変わってき…

幸せは自分の中にある 長野正毅著 『励ます力』

たとえば野球の世界には、イチローというスターがいる。どちらかといえば孤高の天才といったイメージのあるイチローだが、彼に憧れる同業者―—つまりは野球選手だが―—は多く存在するのだろう。たとえば川崎宗則という選手は、イチローに憧れる選手のなかでも…

点と線

もう年始の気分などまったくないくらい日々に忙殺されているが、大晦日に数時間だけ実家に帰る機会があった。 といっても私の場合、実家から1キロほど離れたところに住んでいるので、帰ろうと思えば、毎日だって実家に帰られるのである。多くの人が言う「実…

繰り返すこと

今年の年末年始は忙しく過ごした。と、過去形で書いたのはつまり、明日からはもう仕事が始まってしまうので、いわゆる年始の休みが今日で終わってしまうのが理由だ。ただ、何というか、働くようになってからというもの、あまり年末年始が休みであることを意…

孤独という状態は人間にとって必要か?

人間は思考する生き物である。絶滅を免れ生き残ってきた生物には、それなりに論理的に説明できる様々な理由があるはずである。たとえば、極度の熱に耐える外皮を持っていたとか、酸素のない環境でも繁殖できたとか、そういった、後代から見て納得のできる理…

ある不安について ルース・オゼキ著 あるときの物語(A Tale for the Time Being)

小説を書くという人が、ぜひ薦めたいと思う小説は、本当はその人が書きたかったと願うような小説ではないか。私はそのように疑っている。実際、今から私があなたに薦めようとしているこの小説は、私が書きたかった種類の小説なのだ。 3.11の時、私はフラ…

「イスラム国」について考える前に 内藤正典著『イスラームから世界を見る』

例の人質事件があってから、連日「イスラーム国(ISIL,ISIS,IS,Daesh)」についての報道がなされている。インターネット内外問わず、この「イスラーム国」について、知識人や、あるいは、知識人ではない一般の人々が意見を表明し始めている。その中には感情…

一月に読んだ本

○天使の骨(中山可穂) 王寺ミチルシリーズ第二弾。ではあるけれど、もっとあとの中山作品を知っているわたしとしては、うーん、もうひとつ、という印象をはじめに抱いた。どうにも外国、外国人がぱらぱらと軽すぎる感じがある。話もどんどん進んでいっちゃ…