本紹介

時代を経てなお輝く評論 清沢洌評論集

清沢洌という人の名はジャーナリズムを専攻していた頃からもちろん知っていたが、どういう文章を書いていたのか、どういう思想の持ち主だったかということは、恥ずかしながらこれまで知らなかった。 「愛国心とは、すべての美と真をふくむものであろう」 こ…

たまには短歌などいかが 五島諭著 緑の祠

滅多に詩というものを読まない。格言めいた言葉は好きな割に、これまで詩という領域にとくべつ関心を持ったことがない。二十数年生きてきて、恥ずかしいことではあるが、初めて買った詩集がこの「緑の祠」ということになる。 たまたま近所の大きな本屋に入っ…

島がミステリー 多島斗志之著「不思議島」

私はこのブログでいろいろな書籍を紹介してきたが、なぜそんなものを書くのかということを、一度、改めて考えてみたいと思う。新年でもあることだし。 私は比較的読書をする方だと思う。統計を取ったわけではないし、実際そういった統計は存在するのだろうが…

ドラマ「沈まぬ太陽」を見終えて 音楽描写について

テレビドラマというものは、おそらく現代の鏡のような役割を果たしていると思うのだが、それにしても、ずいぶんと見なくなった。鏡なんか見なくても、自分の顔つきくらいわかっている、という傲慢さがあるわけではないのだが、どうも「見たいドラマ」という…

教育の未来を描く 中室牧子著 学力の経済学

かつてプラトンは、師ソクラテスとプロタゴラスとの議論を描く際、アテナイ人が議会に集まって議論をする様子を描写した。ソクラテス曰く、市民が土木建築に関する議論をするときは、建築家を招き、造船に関する場合は造船の専門家を呼ぶ。それらの専門家で…

読書感想は時空を超えて 宮部みゆき著 模倣犯

読書感想文というものがある。夏休みの宿題として悪名高いアレだ。読書家の間でも話題に上ることは少ないが、私はけっこう、意義のあるものではないかと思っている。 というのも、アレはアレで、読み返すとなかなか味があって面白いのである。 中三の時、夏…

稀有な書 村岡崇光著 私のヴィア・ドロローサ

よくよく考えてみると、私が過ごした中学校、高等学校は、いわゆる中高一貫の私立校で、キリスト教主義の教育というものを標榜していた。 在学中、キリスト教的な象徴は校内のいたるところに存在したし、週に二度礼拝があった。宗教教育の授業もあった。その…

幸せは自分の中にある 長野正毅著 『励ます力』

たとえば野球の世界には、イチローというスターがいる。どちらかといえば孤高の天才といったイメージのあるイチローだが、彼に憧れる同業者―—つまりは野球選手だが―—は多く存在するのだろう。たとえば川崎宗則という選手は、イチローに憧れる選手のなかでも…

ある不安について ルース・オゼキ著 あるときの物語(A Tale for the Time Being)

小説を書くという人が、ぜひ薦めたいと思う小説は、本当はその人が書きたかったと願うような小説ではないか。私はそのように疑っている。実際、今から私があなたに薦めようとしているこの小説は、私が書きたかった種類の小説なのだ。 3.11の時、私はフラ…

「イスラム国」について考える前に 内藤正典著『イスラームから世界を見る』

例の人質事件があってから、連日「イスラーム国(ISIL,ISIS,IS,Daesh)」についての報道がなされている。インターネット内外問わず、この「イスラーム国」について、知識人や、あるいは、知識人ではない一般の人々が意見を表明し始めている。その中には感情…

一月に読んだ本

○天使の骨(中山可穂) 王寺ミチルシリーズ第二弾。ではあるけれど、もっとあとの中山作品を知っているわたしとしては、うーん、もうひとつ、という印象をはじめに抱いた。どうにも外国、外国人がぱらぱらと軽すぎる感じがある。話もどんどん進んでいっちゃ…

中山可穂の原点 『猫背の王子』

正月、インフルで寝込んでいる間にようやく読んだ一作。 わたしは大抵、気になった作家がいたらそのデビュー作をなるべく早く読むことにしている。しかし中山可穂の場合、デビュー作になんとなく手が伸びず(時間をまたいだ三部作であると知っていたので)、…

小説好きのための中編小説集 中山可穂著 「弱法師」

明けましておめでとうございます。気がつけば2015年。年をとるたびに、一年一年が短くなっていくような気がしている。手帳についている新しい年のカレンダーを眺めてみると、案外一年というのは短いなと思い、すこし溜息をついてしまう。 さて、正月とい…

村上春樹の三段跳び 「1973年のピンボール」

1973年のピンボール (講談社文庫) 作者: 村上春樹 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2004/11/16 メディア: 文庫 購入: 13人 クリック: 68回 この商品を含むブログ (286件) を見る 毎年この時期、つまり涼しくなってまわりに風邪ひきが増えたり台風が列島を直…

あまりに個人的な書評 村上春樹著 風の歌を聴け

「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」 村上春樹著 『風の歌を聴け』講談社 p.7 風の歌を聴け (講談社文庫) 作者: 村上春樹 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2004/09/15 メディア: 文庫 購入: 43人 クリック: 461…

さわやかな青春小説 加納朋子著 少年少女飛行倶楽部

少年少女飛行倶楽部 (文春文庫) 作者: 加納朋子 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2011/10/07 メディア: 文庫 クリック: 12回 この商品を含むブログ (21件) を見る 少年少女飛行倶楽部 作者: 加納朋子 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2009/04 メディア…

事実は小説より奇なり 大平健著 顔をなくした女ーー<わたし>探しの精神病理

顔をなくした女―〈わたし〉探しの精神病理 作者: 大平健 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1997/01/22 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る 顔をなくした女―〈わたし〉探しの精神病理 (岩波現代文庫―社会) 作者: 大平健 出版社/メーカー: …

私信 夢我システム様へ

『警視庁警察官 ~深夜の銃声~』 夢我システム 作 御作、拝読いたしましたので、感想など記させていただきます。 私は二度読みました。 まず全体的な感想としましては、ひとつの物語として独立した魅力を持っているものの、前半部分(「私」が女を抱きとめ…

女のいない男たち 村上春樹

村上春樹さんの短編集発売:朝日新聞デジタル 扉を開き、物語の迷宮へ 村上春樹さん新短編集レビュー:朝日新聞デジタル 各所で話題になっていますが、村上春樹の新作短編集が発売になりました。 早速読みましたので、まず全体について極力ネタバレ抜きでざ…

しょっぱい小説 重松清 「とんび」

高校生の時担任の教師に薦められて「その日のまえに」を読んだのが私と重松清の出会いだった。 その時ちょうど村上春樹の「ノルウェイの森」を読んでいて、「その日のまえに」とは随分違う作風なのだけれど、どちらも結局は人の死を、それも愛する人の死を扱…

人生のごった煮 サイダーハウス・ルール ジョン・アーヴィング

さて、ジョン・アーヴィングのサイダーハウス・ルールをご紹介しましょう。 アーヴィングというのは現代アメリカの小説家の中で最も重要な一人と言っても良いでしょう。彼自身はディケンズを尊敬すると言っていることからも分かるように、いわゆる現代的な小…

世界を滅ぼす言葉 伊藤計劃 「虐殺器官」と「ハーモニー」

最近立て続けに伊藤計劃さんの「虐殺器官」と「ハーモニー」を読みましたので、その感想など。 世界を滅ぼす言葉 「虐殺器官」 「虐殺器官」というタイトルからして、何やら血なまぐさい話かなあと思っていたのですが、多少は血なまぐさかったですが、「言葉…

西岡兄妹 自選作品集 地獄

以前、西岡兄妹の「神の子供」を紹介しました。あれは言ってみれば長編のひとつの作品でしたが、今回は短編集です。 この作品集「地獄」には、表題作の「地獄」を含む十二編が収録されています。 書き下ろしの一作品を除けば、どれも90年代に発表されたもの…

村上春樹新作 『木野』 を読む

というわけで、読んでみました。いち村上春樹ファンとしては新作が出たらすぐに読みたいところ。 その男はいつも同じ席に座った。カウンターのいちばん奥のスツールだ。 お、来ましたね、という感じ。スツールですよスツール。 私が初めて村上春樹を読んだの…

レター教室 三島由紀夫著

手紙を書く人が減れば減るほど、その行為はとくべつなものになっていくだろう。 三島がこの作品を書いた時代に比べて、今は手紙を書く人は少なくなってしまったに違いない。 私くらいの世代では、もはやメールさえ廃れている。仕事で電子メールを使うことは…

イニシエーション・ラブ 乾くるみ著

イニシエーション・ラブ (文春文庫) 作者: 乾くるみ 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2007/04 メディア: 文庫 購入: 55人 クリック: 588回 この商品を含むブログ (402件) を見る この間知り合いの女の子と飲みに行った時に薦められた本。 私もたいがい酔…

村上春樹 新作 「ドライブ・マイ・カー」を読む

村上春樹さん新作短編は「ドライブ・マイ・カー」:朝日新聞デジタル 先日のエントリでご紹介した「ドライブ・マイ・カー」、今日文芸春秋買って読んだ。 村上春樹好きにも色々タイプがあると思うのだけれど、私なんかは村上春樹から読書が始まったので、幸…

ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく 堀江貴文著

ゼロ―――なにもない自分に小さなイチを足していく 作者: 堀江貴文 出版社/メーカー: ダイヤモンド社 発売日: 2013/11/01 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (4件) を見る 【反響が凄すぎる!】堀江貴文氏/最新刊「ゼロ」反響まとめ - N…