ドラマ「沈まぬ太陽」を見終えて 音楽描写について

テレビドラマというものは、おそらく現代の鏡のような役割を果たしていると思うのだが、それにしても、ずいぶんと見なくなった。鏡なんか見なくても、自分の顔つきくらいわかっている、という傲慢さがあるわけではないのだが、どうも「見たいドラマ」という…

教育の未来を描く 中室牧子著 学力の経済学

かつてプラトンは、師ソクラテスとプロタゴラスとの議論を描く際、アテナイ人が議会に集まって議論をする様子を描写した。ソクラテス曰く、市民が土木建築に関する議論をするときは、建築家を招き、造船に関する場合は造船の専門家を呼ぶ。それらの専門家で…

読書感想は時空を超えて 宮部みゆき著 模倣犯

読書感想文というものがある。夏休みの宿題として悪名高いアレだ。読書家の間でも話題に上ることは少ないが、私はけっこう、意義のあるものではないかと思っている。 というのも、アレはアレで、読み返すとなかなか味があって面白いのである。 中三の時、夏…

稀有な書 村岡崇光著 私のヴィア・ドロローサ

よくよく考えてみると、私が過ごした中学校、高等学校は、いわゆる中高一貫の私立校で、キリスト教主義の教育というものを標榜していた。 在学中、キリスト教的な象徴は校内のいたるところに存在したし、週に二度礼拝があった。宗教教育の授業もあった。その…

舛添氏の辞任から学べること

この間浅野史郎が「ひるおび!」で、舛添知事の辞任に関連して、「知事選のあり方が知事の質を左右する」というようなことを言っていた。文脈としては、舛添云々というよりかは、青島幸男が大した選挙戦もせずいわばクールに都知事になって、その結果任期途…

ジェネレーションギャップの本質

最近、あまり大層なことを考えなくなっている。短いけど、最近気づいて「おもしろいな」と思ったことを書いておきます。 高校生の生徒と話していて、どうもジェネレーションギャップというのを感じることがある。この間は、「カップルの写真つきツイートにど…

これだけは言っておきたいフランス語のこと カタカナ語にもの申す

自分で言うのも相当アレだが、今日は、これからかなり有益なことを書く。といっても、このブログ自体、ほとんど誰も読んでいないし、そもそも私のペンネームで書いているので、実際の知り合いが読む可能性はまったくないブログだ。しかしアクセス解析なんか…

ミステリばかり読んでいる

とりとめのない話。このブログの最初の記事に、「人生は結局読んで書くということだ」みたいな偉そうなことを書いていたが、今でもそう思っている。ブログを始めた頃に比べると、仕事も住む場所も変わったけど、読書の傾向みたいなものもけっこう変わってき…

幸せは自分の中にある 長野正毅著 『励ます力』

たとえば野球の世界には、イチローというスターがいる。どちらかといえば孤高の天才といったイメージのあるイチローだが、彼に憧れる同業者―—つまりは野球選手だが―—は多く存在するのだろう。たとえば川崎宗則という選手は、イチローに憧れる選手のなかでも…

点と線

もう年始の気分などまったくないくらい日々に忙殺されているが、大晦日に数時間だけ実家に帰る機会があった。 といっても私の場合、実家から1キロほど離れたところに住んでいるので、帰ろうと思えば、毎日だって実家に帰られるのである。多くの人が言う「実…

繰り返すこと

今年の年末年始は忙しく過ごした。と、過去形で書いたのはつまり、明日からはもう仕事が始まってしまうので、いわゆる年始の休みが今日で終わってしまうのが理由だ。ただ、何というか、働くようになってからというもの、あまり年末年始が休みであることを意…

孤独という状態は人間にとって必要か?

人間は思考する生き物である。絶滅を免れ生き残ってきた生物には、それなりに論理的に説明できる様々な理由があるはずである。たとえば、極度の熱に耐える外皮を持っていたとか、酸素のない環境でも繁殖できたとか、そういった、後代から見て納得のできる理…

ある不安について ルース・オゼキ著 あるときの物語(A Tale for the Time Being)

小説を書くという人が、ぜひ薦めたいと思う小説は、本当はその人が書きたかったと願うような小説ではないか。私はそのように疑っている。実際、今から私があなたに薦めようとしているこの小説は、私が書きたかった種類の小説なのだ。 3.11の時、私はフラ…

「イスラム国」について考える前に 内藤正典著『イスラームから世界を見る』

例の人質事件があってから、連日「イスラーム国(ISIL,ISIS,IS,Daesh)」についての報道がなされている。インターネット内外問わず、この「イスラーム国」について、知識人や、あるいは、知識人ではない一般の人々が意見を表明し始めている。その中には感情…

一月に読んだ本

○天使の骨(中山可穂) 王寺ミチルシリーズ第二弾。ではあるけれど、もっとあとの中山作品を知っているわたしとしては、うーん、もうひとつ、という印象をはじめに抱いた。どうにも外国、外国人がぱらぱらと軽すぎる感じがある。話もどんどん進んでいっちゃ…

ひとつだけ自慢できること

私は人に自慢できることがあまりないのだけれど、ひとつだけ、ちょっとしたことだけれど、ある。 それは、十五歳の誕生日からずっと日記をつけているということだ。 ほぼ、毎日。 いまの日記帳は、去年の二月一日から使い始めた。 これは一月末まで使って、…

中山可穂の原点 『猫背の王子』

正月、インフルで寝込んでいる間にようやく読んだ一作。 わたしは大抵、気になった作家がいたらそのデビュー作をなるべく早く読むことにしている。しかし中山可穂の場合、デビュー作になんとなく手が伸びず(時間をまたいだ三部作であると知っていたので)、…

小説好きのための中編小説集 中山可穂著 「弱法師」

明けましておめでとうございます。気がつけば2015年。年をとるたびに、一年一年が短くなっていくような気がしている。手帳についている新しい年のカレンダーを眺めてみると、案外一年というのは短いなと思い、すこし溜息をついてしまう。 さて、正月とい…

記憶について

ついこの間、駅のベンチに座って新聞を読んでいると、「本郷くん?」という声がした。紙面から顔を上げてみると、マスクをした美しい女が微笑んで立っていた。 小学校の同級生のMだった。彼女とは大学時代に何度か駅で顔を合わせたが、それでも三年ぶりくら…

書くということについて 2 だれかに当たります

私たちはアナロジーにまみれて生きている。今日もあなたは誰かと話すときに何かのアナロジーを使ったかもしれない。アナロジーを使えば、銀座のホステスを口説くこととナショナルクライアントから仕事を取ってくることは同じことになるし、新聞記者の仕事は…

きょうはちゃんと書く。

小説を書く人、詩を、あるいは音楽を書く人でもいい。それに、漫画や絵を描く人でもいい。プロでも、アマチュアでも何でも良い。そういう人には、「きょうはちゃんと書こう」という日があるはずだ。朝起きた時にそう思うかもしれないし、帰りの電車の中でそ…

村上春樹の三段跳び 「1973年のピンボール」

1973年のピンボール (講談社文庫) 作者: 村上春樹 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2004/11/16 メディア: 文庫 購入: 13人 クリック: 68回 この商品を含むブログ (286件) を見る 毎年この時期、つまり涼しくなってまわりに風邪ひきが増えたり台風が列島を直…

あまりに個人的な書評 村上春樹著 風の歌を聴け

「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」 村上春樹著 『風の歌を聴け』講談社 p.7 風の歌を聴け (講談社文庫) 作者: 村上春樹 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2004/09/15 メディア: 文庫 購入: 43人 クリック: 461…

ネットを深めるための旅 東浩紀著 弱いつながり

弱いつながり 検索ワードを探す旅 作者: 東浩紀 出版社/メーカー: 幻冬舎 発売日: 2014/07/24 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (17件) を見る 弱いつながり 検索ワードを探す旅 作者: 東浩紀 出版社/メーカー: 幻冬舎 発売日: 2014/08/01 メディア: K…

誰もしないことをやっちゃった! 高野秀行著 西南シルクロードは密林に消える

西南シルクロードは密林に消える (講談社文庫) 作者: 高野秀行 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2009/11/13 メディア: 文庫 購入: 3人 クリック: 20回 この商品を含むブログ (16件) を見る 西南シルクロード? 密林? しかも消える?? タイトルからして謎…

怪奇小説のマスターピース 夢野久作 瓶詰地獄

瓶詰の地獄 (角川文庫) 作者: 夢野久作 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング 発売日: 2009/03/25 メディア: 文庫 購入: 7人 クリック: 30回 この商品を含むブログ (27件) を見る 瓶詰の地獄 (角川文庫) 作者: 夢野久作 出版社/メーカー: KADOKAWA /…

さわやかな青春小説 加納朋子著 少年少女飛行倶楽部

少年少女飛行倶楽部 (文春文庫) 作者: 加納朋子 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2011/10/07 メディア: 文庫 クリック: 12回 この商品を含むブログ (21件) を見る 少年少女飛行倶楽部 作者: 加納朋子 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2009/04 メディア…

心の内側と外側について

佐渡裕という指揮者が興味深いことを言っている。誰かの受け売りの可能性はあるが、曰く、「感動する」ということは、「感じて動く」ということなのだと。実に彼らしい言葉のように思う。佐渡という人は常に感じて動いて来た人物だ。ブザンソンで賞を取り、…

事実は小説より奇なり 大平健著 顔をなくした女ーー<わたし>探しの精神病理

顔をなくした女―〈わたし〉探しの精神病理 作者: 大平健 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1997/01/22 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る 顔をなくした女―〈わたし〉探しの精神病理 (岩波現代文庫―社会) 作者: 大平健 出版社/メーカー: …

ポーランド脱出

台風11号のせいで陰惨な気分で盆休みを迎える方も多いのではないだろうか。私も明日の予定が中止になってしまった。特に西日本に住んでおられる方は、今週末の予定を変えざるを得ない状況に追い込まれているものと想像する。 NHKでJALやJRのキャンセルにつ…