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誰もしないことをやっちゃった! 高野秀行著 西南シルクロードは密林に消える

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西南シルクロードは密林に消える (講談社文庫)

西南シルクロードは密林に消える (講談社文庫)

 

 

 

 西南シルクロード? 密林? しかも消える??


 タイトルからして謎がいっぱいの本書、じつに興味深い旅行記である。しかも旅行記というだけに留まらず、ジャーナリズムとしての価値も十分ある。つまり、誰も行ったことのないところに行っているという新しさに加え、社会論、文化論としても読み応えのある一冊だ。
 はっきり言ってタイトルは意味がわからないから、人に薦められなければ手に取らなかった一冊だろう。実際私も知り合いに強く薦められて読むに至ったわけである。

 

 そもそも西南シルクロードとは何だろうか?
 シルクロードといえば、「絹の道」、大昔の中国からヨーロッパに抜ける交易路のことを誰もが思い浮かべる。しかしそれは一つではない。他にも船がつなぐ海路もある。そして、西南シルクロードとは、中国四川省成都を出発し、ビルマ北部を通り、インドへと至る道のことだ。著者いわく、このシルクロードは、「世界でいちばん知られていないシルクロード」であり、かつ「いちばん古いシルクロード」なのだそうだ。そしてこれを第二次大戦後、陸路で辿った人間は未だにいないという。著者の高野さんはここに魅せられたわけだ。


 正直、最初の方、特に中国から出るまでのくだりは「ふーん」という感じで読み進めていた。西南シルクロードと言われてもいまいちピンとこない。しかし、ビルマに入ってからが波乱の連続で、小説など目じゃないというくらいのドラマが次から次へと襲って来る。ジャングル越えが延々と続くわけだが、読んでいるだけで何となく疲れてくる。しかしそこからはもう完全の著者の世界に入り込んで行ける。ページを捲る手は止まらないだろう。
 エピローグを迎える頃には、読者はひとつの冒険をくぐり抜け、ほっと一息つきたくなるだろう。そしていままで知られることがなかった(といっても10年以上前の本だが)ビルマやインドについての情景を描けるようになっているはずだ。著者の描写はじつに親切で的確で、まっすぐな心で景色を一緒に眺めることができる。何といってもエピローグの結びの文は秀逸だ。そこまで読んではじめて、西南シルクロードがなぜ「密林」に「消える」のかを知ることができる。すばらしいタイトルだと感じ入ることだろう。

 

 ビルマミャンマー)という国は、今ビジネスの世界で俄然注目を浴びている。民主化勢力(アウンサンスーチー)VS軍事政権という構図でこの国を見てしまいがちだが、複雑な民族問題のパースペクティブが存在することを読者は知るだろう。そういう意味でも、ビルマ関係のビジネスを営んでおられる方には必読書と言えるかもしれない。


 誰も行ったことのない場所、誰も見たこともない景色。そんなものが果たしてこの時代あるのかと、ふと思ってしまうこともある。本屋では、ネットで収集した写真をつなげた写真集が売られていてため息を吐くことがある(私だけかもしれないが)。この本はその対極にある本かもしれない。高野さんに同行した森清さんの写真には心を打たれるだろう。お手軽じゃない旅。既視感のまったくない本。そういうものを読んでみたい方は、ぜひ手に取って欲しい。