数学と私 その2

 

2.補講と私

 

 

 塾では散々な思いをしたが、小学校で算数はだいたいできていた。宿題なんかも律義にやっていたし、通信簿も全部「よくできました」だった。

 

 ところが受験して私立中学に入ると、周りが自分よりできる。その状況自体は、塾に通っていた時から慣れていたから、とくにキツいということもなかった。ところが、塾にはなかった「補講」というシステムが突然現れる。

 

 例えば一学期の終業式が7月20日にあったとして、普通の生徒は翌日から学校に来なくてもよい。しかし、成績が低くて補講にお呼ばれすると、だいたい10日くらい、一学期の復習をやらされるのである。私は早速、中1の夏休みからこれのお世話になった。

 

 補講というやつはものすごくストイックで(当然だが)ずっと勉強させられる。授業は雑談を楽しみにするものだと思っていた私には苦痛でしかなかった。オマケに、補講にかかってしまうと、吹奏楽部の夏合宿に遅れて参加する羽目になるのだった。

 

 中1とはいえ受験を終えた私に勉強するモチベーションなど皆無で、長期休みのたび数学だけ補講にかかった。たぶん、わかっていなかったし、できていなかった。その割には、「やらなきゃダメだ」という気にもならず、ただ部活に打ち込む日々を送り、むしろ、「補講でちゃんと復習できているんだし、いっか」みたいなだらけたマインドになっていた。

 

 受験のとき、それなりに成績に厳しかった母親も、中学に入ってからは、勉強のことを何も言わなくなった。学校の成績表の見方が複雑でよくわからなかったのだと思う。父親はちょうどそのくらいのときに会社の近くに引っ越してしまったので、誰かから勉強について注意される環境がまったくなかった。これは非常にありがたいことだった。おかげで、自分で勉強する理由を勝手に見つけられたからだ。

 

 中2になっても数学は絶望的な状況だったが、吹奏楽部にたまたま新入生がたくさん入ってきた。そこで初めて、「さすがに先輩にもなって補講で合宿に遅れるのはマズイな」という意識が芽生えた。そして、補講にかからない程度に勉強しよう、という気持ちになり、それを実践した。

 

 それ以来、一度も補講に呼ばれることはなかった。とはいえ、中2の頃は成績は下から数える方が早く、国語と社会で稼ぐというスタイルは変わらず貫き、なんとか生き抜いていた。まだ数学は大嫌いだったが、ある日を境に数学が好きになる。