さわやかな青春小説 加納朋子著 少年少女飛行倶楽部

 

少年少女飛行倶楽部 (文春文庫)

少年少女飛行倶楽部 (文春文庫)

 
少年少女飛行倶楽部

少年少女飛行倶楽部

 

 

 

さわやかな青春小説を読んでみたい、と誰もが思っている。それは今まさに青春を送っている人にとってもそうだろうし、かつてそのような青春を経験したと思っている人にとってもそうだろうし、あるいはそのような青春を空想することしか出来ない人もまたそうなのだ。要するに青春小説はすべての人の心を打つ。特に、若い頃の青春の話なんかは。

 
加納朋子といえば、いわゆる「日常の謎」系のミステリーを書く作家として知られているし、鮎川哲也賞でデビューを飾ったことも有名だ。しかし今作、「少年少女飛行倶楽部」にはミステリーの要素は皆無と言っても良いだろう。誰も死なないし、何も消えない。ただたださわやかな中学生たちの青春の1ページを描ききることに徹している。
 
このお話は、中学一年生の海月が、小学校からの友人である樹絵里に誘われ、「飛行倶楽部」という部活に入部してしまうところから始まる。何の因果かわからず、飛行倶楽部に集った登場人物達がひとつの目標に向かって団結していく、部活ものでよくあるようなシチュエーションの物語だ。しかし今作の場合、「飛行倶楽部」というわけのわからない部活が舞台になっているのでその点でまずぐっと引き込まれていく。
 
主人公はこれといって特徴のないような女子生徒だが、思考が少々大人びていて、世話焼きな性格だ。語り手でもあるこの少女のまわりには、ちょっと変わった中学生たちがうようよといる。
 
性悪だけど人間関係に不安を抱えているイライザ、おどおどばかりしている野球部崩れの餅田、登場人物の中でも異色を放つ天然のるなるな、典型的公務員の立木先生、唯一まとも風な中村先輩。そして部長である「神サマ」とその姉の「エンゼ」。これらの人物たちが、「空を飛ぶこと」が唯一の目的である「飛行倶楽部」を巡って物語を紡いで行く。
 
メインストーリーは「こいつら本当に飛べるのか?」というところになっていくわけだが、王道風にさまざまな試練を乗り越え、中学生達は空を飛ぶ手段を見つける。そして部長である「神サマ」がなぜ飛行倶楽部を作ったのか、飛ぶという行為に秘められた思いに主人公が密かに気づいていく、というストーリーでもある。
 
またこれは、名前にまつわる物語でもある。「名は体をあらわす」などと言ったりもするが、小説だけの話ではなく、実際に人の性格と名前には何らかの関連があったりするものだから、その点でもこの小説の人物描写は絶妙だなと思う。
 
部活に燃えた人も、そうでない人も入り込める、わくわくしながら読める青春小説である。ぜひ手に取って読んで頂きたい。
 
余談だが、この小説はとある人に、「あなたの小説に似ているところがある」と薦められて読んだ小説でもある。私はその時「クラリネット」という中編小説をその人に読んでもらったところだったのだが、文体も雰囲気も確かに似通っていた。ここまで文体が近い作家に出会ったのは初めてのことだったから、そういう意味でも興味深く読み進めることができた。こういうこともあるんですね。