私信 夢我システム様へ

 

『警視庁警察官 ~深夜の銃声~』 夢我システム 作

 

 

御作、拝読いたしましたので、感想など記させていただきます。

私は二度読みました。

まず全体的な感想としましては、ひとつの物語として独立した魅力を持っているものの、前半部分(「私」が女を抱きとめるまで)の構成・文章が、この物語の最も重要な部分であり、印象的な部分である銃撃戦への導入としていささか問題を抱えているように思えました。

自分なりにではありますが、そう感じた原因を考えてみたいと思います。

 

まずはじめに、

 

>私の記憶を呼び戻したのは、前を自転車で走る警察官の拳銃だ。

 

この文章ですね。これは過去と現在を繋ぐ役割をしている文ですが、拳銃がどの記憶を呼び戻したのかということが明瞭ではありません。

二回目に読んだ時にはこの「私の記憶」が、この文章より以前の、幼少時代の銃の記憶だとわかるのですが、一回目はわかりませんでした。「私の記憶」の話があとに来る可能性をこの文章は否定していないからです。

ですから、「そんな私の記憶」とするか、あるいは情報の出し方を逆にするという手もあります。

先に「現在」のことを書いて、それで前にいる大熊の銃を見て回想するという手法です。こちらのほうが一般的でわかりやすいかと思います。

私も今書き続けている長編で、こういった情報の前後不覚が頻繁に起こっています。

書き手としては工夫したつもりでいることが、案外読者にとって不親切なこともあるのだなと、知人に感想をもらうたびに思います。

 

同様に、

 

>三十歳前後で自立した大人のセクシーさが感じられる女だ。顔に熱い息がかかる。顔や腕に髪が降りかかり、良い香りがする。真正面から見たグレイの瞳が神秘的で、こんな時にも係らず心が吸い込まれるそうになる。不思議なことだが、どこかで見たことがあるような顔だ。

 

この部分も、

 

>私の体の上に乗った体重も重くない。一安心した顔だが、意志がしっかりしていて気が強そうにも見える。

 

どちらかといえばこの情報を先に出したほうが良いのではないかなと思いました。

 

というのも、いきなりセクシーさが感じられるというのは唐突な感じがしたのです。「こんな時にも係らず」という文章でフォローはされているのですが、それにしても、という気がいたしました。

 

>どちらも女性警官が多い部署で若くて一八三センチの長身の私はモテモテで、自分が犯罪者と直接格闘することになろうとは考えてもいなかった。

 

この部分にも通じるところがあったのですが、いささか人物描写が軽すぎるではないかという印象を受けました。

モテモテ、と書かれると少し萎えてしまうのではないかなと思います。おいおい、という感じです。

しかし、この女が登場して以降のアクションシーンには目を見張るものがありました。

拳銃の描写を中心とした銃撃戦の書き方は、わずかな時間を丁寧に読者に見せ付けてくれるもので、スリリングでさえありました。

物語の落とし方も良かったと思いますし、野球の比喩を、主人公のキャラクターと合わせて、全編通じて使用されたこともこの作品を読者が理解する上で必要不可欠のことであったように思います。

それゆえに、前半部分にもどかしさを感じてしまいました。

以降は誤字脱字等の指摘になります。

 

>熊さんが聞いたのが銃声ではなくパンクか花火の音であったほしい

あってほしい

>普通の犯罪者を取り締まる刑事部や生安(生活案全部)

→(生活安全部)

>母方はロンドン郊外の裕福な一族らしい。

 →母方の家族はロンドン郊外に住む裕福な一族らしい。

>関係者隠しの一貫

→関係者隠しの一環

>巡査長が二階級特と言ったのは

 →二階級特進

 

>「そうだ。さらにやっかいになった。銃をぶっ放しているのはどっかの国のテロ犯か工作員かもしれない」

 最悪の事態かもしれない。

 

これを指摘するのは書き手側の取り越し苦労なのかもしれないのですが、「かもしれない」の音の響きが重なるのは意図的にされたものなのでしょうか。少々気になりました。

同じように何箇所か、漢字の重複が気になったり、特進の説明における「巡査」の語があまりにも多用されていて読みづらいということを感じました。

 

>俺には家族がいる--こんな所で死ぬわけにはいかないんだ

この「俺」が誰を指しているのか、私なのか大熊なのか判らないまま読み進めましたが、

>巡査長に見せてもらったことがある家族四人の写真が目に浮かぶ。

ここで納得しました。

 

と、偉そうに色々書かせていただきました。失礼がありましたらお詫びいたします。

いずれにせよ、中盤以降は読ませる小説だったなと思います。

私自身、銃の知識はほとんどないにも関わらず、その銃を中心とした小説の世界にいつの間にか飲み込まれていったという感触があります。

新作お待ちしております。